【無情】好きなのに打ち切られたライトノベルシリーズ10選
現実は無情である
出版業界の不況が叫ばれる昨今においてなお、ライトノベルの売上は依然として衰えません。映像化、DVD化、CD展開など、多種多様なメディアミックスを経て獲得した新たな層や、特典のために同じ商品をいくつも買い漁るジャパニーズ・オタク・スピリットが業界を支えていると思うと感慨深いものがありますね。
しかし、現実は無情です。
ライトノベルもひとつの商品であり、残念ながらそうである以上、売れなければ淘汰されます。乱暴な言い方ですが、サーバーの一部を食らってデータベース上にポンと放り投げられるだけのWebコンテンツと違い、書籍には出版コストがかかります。コストに見合わない作品が打ち切られるのは、仕方のないこと。
けれど、「淘汰された側」にも少なからず需要は存在します。
今回は「打ち切られてしまったライトノベル」にフォーカスすることで、そうしたマイノリティ側の需要を少しでも拡大させたいという想いから筆を取りました。もし、以下に列挙する作品の中で「知っている作品」があれば、ぜひともお声がけいただきたいと思います。マイノリティは全体的な認知こそ少ないが、その分、共感を得た際の高揚感は並々ならぬものがあるからです。
なお、「打ち切り」の定義には個々人で認識の差異があるため、ここで統一しておきましょう。この記事上における「打ち切られたライトノベル」は、続巻が一向に刊行されない作品を指します。
例を挙げると「僕は友達が少ない」(MF文庫)や「ダンタリアンの書架」(角川スニーカー文庫)などのように”一応の最終話”を迎えたものは該当しません。
なお「空ろの箱と零のマリア」(電撃文庫)や「紅-kurenai-」(スーパーダッシュ文庫)、「GOSICK」(富士見ミステリー文庫)などのように、長期明けでいきなり続刊が出る作品も存在するため、この「打ち切り」作品が該当物ではなかったというオチもあり得ます。ご了承くださいませ。
白奈さん、おいしくいただいちゃいます
著:似鳥航一 イラスト:瑠奈璃亜
学園の内外で起こる謎めいた事件を、主人公本間玄人とヒロイン城之内白奈が「料理」で解決していくコミカルミステリー、またはグルメコメディ作品。一見なにを言っているのか分からない方も多いかもしれないけれど、この表現が正鵠を射ているとしか言いようがありません。
主人公の玄人くんは天才的な料理の腕を持っており、またヒロインの白奈さんはバカと紙一重すぎるため掴みどころがなく、突拍子もない言動や行動をおっぱじめるアクティブな天才です。プロローグで天高くから卵を割り落とし、地上で卵かけごはんを完成させるという突拍子もなさすぎる展開で心を持っていかれました。
グルメ系作品にはお決まりの食レポキャラも健在で、ライトノベルながら美味しんぼとか焼きたて!ジャぱんを読んでいるときのような「食の勢い」に圧倒されます。夜中に読んでいると思わずお腹が減る傑作。ですが現在2巻で止まっています。
電波的な彼女
”人間の狂気”を描いた傑作にして、「紅-kurenai-」の作者・片山憲太郎先生のデビュー作でもあります。書籍の他、OVA化もされましたが3巻で止まっています。メインヒロインのCVに広橋涼が起用され、完全に「勝った」と思ったのに3巻で止まっています。
通り魔、集団カルト、小児誘拐など、人間の起こしうる狂気に主人公・柔沢ジュウとその「従者」堕花雨が立ち向かう、という大筋。「従者」という言葉はそっくりそのまま、ヒロインの雨ちゃんが発する言葉なのですが、前世の絆がどうとか運命がどうとか、まったく想像できない思考から”理由”が繰り出されます。「電波的な彼女」というタイトルはこのヒロインの属性に紐づいています。
これはかなり重度のネタバレになりますが、第一巻で主人公にちょっかいをかけていた溌剌とした女の子が実は通り魔の共同正犯で、なおかつ幼少時から現在にかけて通り魔からたびたびレイプされていたという背景が出てきます。ライトノベルのメインターゲットたるジャパニーズ・オタクの大半が怒りで本を破くだろう挑戦的な命題を、非常に奥ゆかしく感じました。でも3巻で止まっています。
我が家のお稲荷さま。
10年前くらいの電撃文庫でTOPを飾っていた気がする人気作。なのに7巻でストップしている。しかも7巻が短編集という悲しい結末。
魅力的な妖怪・天狐空幻を家族として迎え入れる主人公一家の懐の深さと、取り扱っている問題がわりとナイーブめにも関わらずドタバタコメディのように進んでいく物語の軽妙さがとても魅力的です。
この作品は認知度高めですし、アニメ化もされましたので一度そちらに触れていただいて、できれば原作も読んでいただいて、7巻でストップしていることへの謎を共感できればなと思っています。サラッと終わって次に行きましょう。
カクレヒメ
著:佐竹彬 イラスト:草野ほうき
“感覚拡大症”という五感の一つが暴走してしまう謎の現象がある、現代が舞台。病気の一種である症状を持ち“触覚を物体の中に潜りこませる”ことが出来る高校生・瀬畑明珠は症状を研究する特殊機関「時任病院・第八号棟」の医師の新留紗織と出会い、そして患者の巫部梓と出会う。彼女は能力を持つがゆえに施設の中で外との接触を断って過ごす“隠れ身の姫”と呼ばれる少女であった。拡大症患者でありながら、唯一通院することを認められた明珠は心を交流させる。(あらすじ引用)
ありがちといえばありがちな、ジュブナイルもの。ただ、「感覚を拡大させる」というテーマと、それに縛られたヒロインという切なさの権化のような設定と、その空気感に心を奪われました。
主人公・明珠の持つ「物体の中に触覚を潜り込ませる」という、一見なにに使えるのかわからないコンビニ弁当のバランのような能力も、作中でとても優秀な活躍を見せます。外界との接触を断って生きるヒロインとのガラスのような掛け合いも魅力のひとつ。1巻だけでも読んでみることをお勧めします。1巻が気に入れば2巻も。どうせ2巻で止まっているので。
わたしたちの田村くん
著:竹宮ゆゆこ イラスト:ヤス
「とらドラ!」と「ゴールデンタイム」で一世を風靡した竹宮ゆゆこ先生の作品。ファンも多く、その独特なタッチで描かれるストーリーは今後の展開を非常に楽しみにさせるものがありましたが、2巻で止まっています。
主人公の”田村くん”が、時期を違って2人の女の子、小巻と広香に出会い、どちらにも惹かれながらその関係に苦悩し、奔走するラブコメ作品です。
いわゆる「電波系ヒロイン」にあたる小巻との関係に読んでいるこちらもヤキモキさせられますが、背負った過去や、「離れても文通でつながっている」という距離感の薄さに、心を持っていかれました。
もう一人のヒロイン・広香はイジメ被害による不登校を経験しており、主人公が献身的に関わる中でヒロイン側から恋愛感情が芽生えていくのは、まるで少女漫画を読んでいるような感覚でした。
ぜひともお勧めしたい作品です。止まってるけど。
きみとぼくの壊れた世界(世界シリーズ)
戯言、化物語、少女不十分、めだかボックス……と、西尾維新作品だけでもかなりのシリーズ数を誇りますが、私的「最も西尾維新っぽい作品」がこの世界シリーズです。
内容としては、学園で起こる殺人事件を解決する王道ミステリー。ただし登場人物の人生観が大いに狂っているため、めちゃくちゃ回り道して王道を進むことになります。
実妹を溺愛する主人公・櫃内様刻、実兄を溺愛する妹・櫃内夜月、対人障害で保健室から外に出られない売春探偵・病院坂黒猫など、魅力的なキャラクターが目白押しです。西尾作品なので、サイコパスじみた主人公による怒涛の一人称視点で展開され、見開きのページがまるまる文字で埋まっているような描写も。
一風変わった作品を求める方にお勧めしたいです。この作品の要となる最強ヒロイン・病院坂黒猫による回想譚「ぼくの世界」が存在するそうですが、刊行されないまま数年経過しています。愛しているよ、くろね子さん。
ばけらの!
著:杉井光 イラスト:赤人
一時期炎上していた杉井光先生がGA文庫で出していた作品。正直、作家なんて炎上も芸風のひとつだと思いますし、成果物が面白ければそれでいいので、「さよならピアノソナタ」や「神様のメモ帳」、「生徒会探偵キリカ」を生み出した杉井先生のことは個人的にかなりリスペクトしています。
舞台は現代の池袋。主人公の名前は杉井ヒカル。つまり、杉井先生が自身をベースに作っておられる作品です。一巻の表紙にもなっているヒロイン・葉隠イヅナのベースは「狼と香辛料」の支倉凍砂先生だそうです。
内容としては、ライトノベル作家がボロアパートでだらだらと駄弁ったり、パチ打ちに行ったり、ファミレスで原稿の〆切に追われたり、麻雀打ったりする、ある意味でめちゃくちゃリアルな日常小説。だからこそ、この緩い空気感を味わうのが楽しいです。
現実ベースのため、メタフィクションを交えた日常風景が1巻、2巻と続きますが、完全にお察しのとおり2巻から6年くらい止まっています。
トカゲの王
著:入間人間 イラスト:ブリキ
「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」「電波女と青春男」「僕の小規模な奇跡」などで知られるトチ狂い一人称芸人・入間人間先生の作品。内容としては異能バトルもの。
ただし、この使役できる「異能」のスケールが他作品とまったく異なり、瞳の色を変えられる”だけ”とか、相手の小指を自由自在に動かせる”だけ”とか、めちゃくちゃ華美な翼を生やせる”だけ”とか、単体ではまったく戦力として機能しないものばかり。これらをうまく組み合わせて登場人物が状況を打破していく様子は、入間先生の作風も相まってまったく想像ができません。
相変わらず登場人物が独特の倫理観を持っていますが、中でも最もヤバいと思われるメインヒロイン・巣鴨は、女子中学生のくせに公の場にストリッパーみたいな服装で出かけるわ、主人公の瞳が好きだからという理由で眼球をエグり出すわ、狂った世界観の代表格のような存在で非常に魅力的です。
この作品を選んだことを共感してくれる方は結構多いんじゃなかろうか。例によって5巻で止まっています。
青春ラリアット!!
著:蝉川タカマル イラスト:すみ兵
「行くぞコノヤローッ!」どこかの有名レスラーばりにマイクコールをし、全校朝礼の場で公開告白をした月島。その結果は――当然、停学処分となったのだった。バカの日本代表、月島を心配する者が一人。友人の宮本である。宮本は傷心の月島を見舞う事に。その道中で出会ったのが、整った顔立ちながら愛想の欠片もない無表情の少女、長瀬だった。どうも、長瀬は“あの月島”に惚れているらしい。その事に驚きつつ、自分に対してなぜか横柄な彼女に怒りも覚える宮本だった。この奇妙な三角関係が、風雲嵐を巻き起こす事になり――? (あらすじ引用)
青春に最も必要なものは”勢い”だ! と言わんばかりの挑戦作。いつだったかの電撃文庫大賞で金賞を受賞していた気がします。実際、ライトノベル含め、他の小説やアニメ、映画などで問題になる部分を全部”勢い”で攻略していく物語はめちゃくちゃ面白く、そして続刊が出ないまま時間が経過してしまいました。
登場人物がすべて勢いのまま押し切っちゃう脳筋ばかりなので、いわゆる「神の視点」(三人称視点)からストーリーを追っていくのが非常に心地よく、個性的なキャラクターも相まって、コミックを読んでいるような感覚でサクサク読み進めることができます。ヒロインが主人公(?)に興味を示さない点も、ライトノベルとしては新感覚で非常に奥ゆかしかったです。1巻だけでも購入する価値ありますよ!
私の愛馬は凶悪です
私の愛馬は凶悪です | 文庫 | ファミ通文庫 | エンターブレイン
高岡霧理の我慢はもう限界だった。クラスメイトの射水位里は有名な女たらしで、毎日違う女の子とえっちしているらしい。高校生としてどうなの!? と思っている矢先、教室で他校の女子とモメている様子を見て爆発、説教しまくる! しかし、位里の言い分は「ただ話し相手がほしいだけ――」。彼の奇行(?)を止めるため、霧理は一人暮しの位里のマンションへ行くことに。それをきっかけに、彼に複雑な感情を抱くようになるのだが――。あるとき“位里様の超絶テク”の噂を聞きつけた妹の氷柱に、彼の『予約』を頼まれて霧理は大ショック!? 恋にえっちに悩む霧里たちのおかしな青春模様。(公式サイトよりあらすじ引用)
ライトノベルの世界に「セックス」要素をポジティブに取り入れ、等身大の女子高生の悩みや日常生活を生々しく描いた本作。1巻で止まっています。シリーズものと呼べるのか疑問ですが、次巻の存在が示唆されていたような気がするのでノミネートさせていただきました。
奥手な主人公が、性的に進んだ周囲からの乖離を覚えつつ、ヤリチンの男の子と仲良くなるというストーリー。”進んでいない”女子高生の心理描写が愛らしく、1巻だけで心を持っていかれた作品です。
伝えたいこと
本題に入る前に「マイノリティに対する共感を得たい」としたためましたが、実はもう一つ、伝えておきたかったことがあります。
淘汰されていった作品の中でも「これは面白い」と自信を持って言えるもの を選定してみました。はじめの「淘汰された作品にも需要は存在する」という部分に掛かりますが、言い換えれば、見る人は見ているのです。数が少ないだけで。
いくらマイノリティでも、淘汰される側でも、見る人が見ればそれは「面白い」ものとなり得ます。たとえば、投稿した動画の再生数が少なくて悩んでいるあなたも、ブログのPV数が少なくて悩んでいるあなたも、見る人が見れば「面白い」ものを作っているに違いありませんよ!
ついでに
先日、こんな「10選」を投稿したので、ぜひともチェックしてみてください。
それでは、ここらで筆を置かせていただきます。ありがとうございました。
P.S.「生徒会探偵キリカ」がめちゃくちゃ好きで、もう6巻から1年3ヶ月動いていないのですが、打ち切られていてほしくないのでここには記載しておりません。